館長挨拶

現在、経済学図書館は『知の継承』という記念事業を展開しております。これは、令和2(2020)年が経済学図書館の淵源である法科大学に設けられていた経済統計研究室の設立から120年、もう一つの淵源である商業資料文庫の設置から110年、新渡戸稲造によるアダム・スミス旧蔵書の寄贈から100年に当たる年であり、それを記念して企画されたものです。本図書館は、こうした120年余りの間に、関東大震災、思想統制、戦時下の空襲など何度も危機や困難に遭遇してきましたが、営々と書籍・資料の蒐集のための努力を続けてまいりました。

その結果、今日では本図書館は、蔵書数約84万冊、継続雑誌タイトル数786タイトル(2019年4月現在)を擁し、経済学・経営学の分野では国内有数の専門図書館となっております。蔵書数のみでなく、その内容も特筆すべきものがあります。例えば、前述のアダム・スミス文庫やエンゲル文庫など著名な経済学者の旧蔵書やマニュスクリプト、他に存在が確認されていない多くの稀覯本、社会科学の古典籍など貴重図書として分類されるものだけで2400点を数えます。また、新渡戸稲造、有澤廣巳、脇村義太郎といった本学部元教授・名誉教授の旧蔵書や旧蔵資料、三菱経済研究所旧蔵資料に代表される経済研究機関の旧蔵書なども保有しております。さらに設立間もないころより、官庁、経済団体、企業等の刊行物や資料を広く組織的に蒐集してまいりました。特に近年では、企業や団体、個人の一次資料の蒐集・保管・管理に積極的に取り組み、世界有数の企業資料である「山一証券資料」や「横浜正金銀行資料」、初代経団連会長である「石川一郎文書」他、数多くの個人資料・企業資料を保有することとなりました。この他に、本図書館は、日本銀行の貨幣博物館に次ぐと言われる古貨幣・古札のコレクションを有しております。

さらに近年は、情報技術の発展に対応し、情報図書館としての機能の強化に努めてまいりました。中でもサブジェクト・ゲートウェイ・サービス(Engel)は、本図書館が所蔵する社会経済関係資料の目録やデジタルアーカイブの検索システムであり、企業資料、政府・地方自治体・労働関係資料、金融政策資料、その他の経済関連学術情報の入り口としての役割を果たしております。それ以外にも、有価証券報告書データベース、古貨幣・古札画像データベース、山一証券資料目録データベースなどもウェブサイト上での閲覧が可能です。また、ホームページの「資料と情報の検索」の欄をご覧いただければ、電子ジャーナルや電子ブックさらにはシラバスブックリストなど様々な形の電子情報にアクセスできることがおわかりになるでしょう。

現在、本図書館は、赤門総合棟と学術交流棟(小島ホール)の2つの建物にまたがって所在しております。一般図書・資料は赤門総合研究棟3階の閲覧室で、貴重図書・特別資料・企業資料や古文書などの一次資料は学術交流棟3階の資料閲覧室で利用いただいております。資料室は資料の整理・修復・保存を一貫して担い、国内有数の文書館機能を有しております。なお、学術交流棟は、小島プレス工業株式会社からの「図書館振興のため」の寄付によって建設され、平成22(2010)年4月に竣工し、地下には温度・湿度管理を徹底した資料所蔵庫を有しております。

このように経済学図書館は、東京大学経済学研究科・経済学部が真に誇ることのできる資産の一つであり、その価値はみなさまに利用されることによって一層発揮されることとなります。とはいえ、現在コロナ禍に見舞われ、開館時間の短縮や閲覧室の座席制限などをせざるを得なくなっております。このような制約がある中でもできる限りみなさまのニーズに応えていきたいと考えております。また、これまで以上に、本学部・研究科における学習・教育・研究活動を支える基盤としてのみならず、学内外の研究者等に開かれた図書館として社会や学界に貢献していくために努力していく所存です。

みなさまにおかれましては、今後ともさらに積極的にご利用いただきますようお願い申し上げる次第です。

令和3年4月1日
東京大学経済学図書館長
石原俊時

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