調査・研究(長期保存が不可能な記録材料のための保存プロジェクト)

デジタル補正による蒟蒻版と青焼(ジアゾ)の公開について

蒟蒻版の高コントラストデジタル補正

経済学部資料室では、蒟蒻版と青焼(ジアゾ)についてデジタル補正による情報保存に取り組んでいます。図1 蒟蒻版
蒟蒻版とは謄写印刷(ガリ版刷)に先駆けて利用された平版印刷の一種で、印刷原版にゼラチンや蒟蒻、寒天を用いたため蒟蒻版や寒天版と呼ばれています。平版印刷は化学反応により必要な部分のみにインクをのせる印刷方法であるため、特殊な筆記用具を必要とせずどんな紙にも簡便に印刷できる利点がありました。
このように簡便な印刷方法であったため、蒟蒻版は明治10年代から昭和初期にかけて、官庁や学校、企業などの会議資料や内部文書に広く利用されています。

しかし、蒟蒻版に使用された紫色のインク(メチルバイオレット)は紫外線に弱く、経年変化により消えてしまうのです。退色が進めばカメラによる撮影ではほとんど判読できません。現在のところ退色を防止したり、既に退色した情報を復原する化学的手段は無いため、これまでは上から墨でなぞったり退色の度合いが弱いうちにハードコピーをとる以外に情報を保存する方法はありませんでした。
そこで当室では、デジタル補正を加えることによりコントラストを際だたせ、薄くなった文字情報の復原を試みています。

蒟蒻版のデジタル補正前と補正後の比較はこちらから

公開しているデジタルアーカイブでは、一部を除いて、デジタル補正前と補正後の両方の画像が閲覧できます。画像は各画面の左上のボタンで切り換えられます。

青焼(ジアゾ)のデジタル補正

青焼は複写(コピー)の一種であって、記録材料・記録方法によりシアノ式とジアゾ式があります。

図3 青焼(ジアゾ) 図4 青焼(シアノ)
          青焼(ジアゾ)      青焼(シアノ)

このうち、青焼(ジアゾ)は、ジアゾニウム塩を感光材料に用いた複写方式で、感光という言葉からも解るように、光(なかでも紫外線)に弱く退色が進むと赤みがかった色に変わり情報が消滅してゆきます。青焼(ジアゾ)は、背景、文字ともに青である上に両者の退色が同時に進行するため、経年劣化が進めば進ほど文字のコントラストが捉えにくくなります。このため、退色が進行していないものは、蒟蒻版と同様に高コントラスト処理でも情報を復原できますが、著しく退色するとカラー撮影とデジタル補正を組み合わせても蒟蒻版ほどの識字効果は得られません。このため、退色の進行した青焼(ジアゾ)の代替化に際しては、最初に多階調(グレースケール)で画像を作成し、その後、背景部分と文字部分を分離処理を行ってからモノクロ画像を作成する処理を行いました。

図5 青焼(ジアゾ)【補正前】図6 青焼(ジアゾ)【補正後】
  青焼(ジアゾ)【補正前】         青焼(ジアゾ)【補正後】

なお詳細については以下の文献を参照してください。

小島浩之・矢野正隆・内田麻里奈「蒟蒻版と青焼(ジアゾ)のデジタル処理による情報の保存について」『東京大学経済学部資料室年報』1, 2011

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