本立而道生 ― 資料に如何に向き合うべきか

東京大学経済学部資料室助手 小島浩之


 インターネットにより所蔵資料が瞬時に検索可能になったのに比例し、利用も増加の一途を辿っている。これまで日の目を見なかった資料が利用されることは大いに歓迎すべきことである。他方、利用の増加は、資料の劣化を白日の下にさらしている。特に筆者の勤務する東京大学経済学部資料室が所蔵する資料は、その傾向が著しい。

 当資料室は、官庁および地方公共団体を中心とする各種団体による統計、調査報告書、近現代の一次資料等の収集・整理を行っている。このうち第2次大戦前から昭和40年代頃の資料は、劣悪な紙や青焼きコピーの使用等により、見るも無惨に朽ち果てようとしている。このまま放置すれば、近現代の貴重な歴史史料が、数十年後に確実に失われてしまうだろう。保存の緊急性に関して劣化速度のみから言えば、江戸期以前の和紙の古文書より、近現代資料の方が深刻な状態なのである。

   東京大学経済学部図書館、資料室、文書室は三位一体となって様々な活動を展開しており、サブジェクトゲートウェイシステムEngelはこれまでの活動の集大成といえる。当然これは資料保存の意識に裏打ちされたものだが、今後その意識をさらに具体化してゆく必要性に駆られている。

 ただここで焦って“資料のモノとしての本質を理解する”こと失念してはいけない。資料の成立背景や史的意義を見据えて、個々の資料に適した保存法、公開法等を研究することは、専門図書館の責務と言っても良い。流行に惑わされない地道な努力の積み重ねこそ、進化や発展を生み出す原動力となり、専門図書館としての存在意義を揺るぎないものにすると確信している。

  「本(もと)立ちて道生ず(物事の根本が定まれば道は自然に生ずる)」(『論語』学而)まず本質を見定めること先にありきである。


初出 専門図書館協議会関東地区協議会"News letter せんときょう・かんとう"第186号(2005.1.25)


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